ページタイトル セロトニン、自殺、読み聞かせ -お父さんもっと読み聞かせをして!!-

対象者: 一般向け

セロトニン、自殺、読み聞かせ -お父さんもっと読み聞かせをして!!-

 自殺と眠りについてスライド7枚にまとめました。PDFの注釈もご参照ください。ポイントは日本人の睡眠時間が減り、下限に達したのが1995年。その3年後に自殺者は突然急増、以降3万人を越えたまま、という点です。
 実は自殺した方の脳では、特に前頭前野という部位でセロトニンが減っていることが報告されています(Leyton, M., et al (2006) Eur. Neuropsychopharmacol., 16, 220.)。セロトニンとは、心を穏やかにすると考えられている神経伝達物質です。前頭前野には行動の判断をする役割があり,衝動性を抑えて心の平静を保つ働きをするのですが,セロトニンがないとこの機能が発揮されず、自殺に発展してしまう、という仮説です。
 セロトニンの濃度がヒトの意思決定にも関わること示す実験結果も最近報告されています。神経経済学、というジャンルでの研究です。大阪大学社会経済研究所のHP(http://www.iser.osaka-u.ac.jp/faculty/tanaka.html)内の田中沙織准教授の研究によると、目先の報酬を予測しているときは、前頭葉眼窩(がんか)皮質や線条体の下部を通る回路(情動的な機能にかかわる)が活動し、将来の報酬を予測しているときは、背外側前頭葉前野や線条体の上部を通る回路(認知的な機能にかかわる)が活動するのだそうです。そして被験者の脳内のセロトニン濃度が低いときには、短期の報酬予測回路がより強く活動し、セロトニン濃度が高いときには、長期の報酬予測回路がより強く活動するのだそうです。そして脳内のセロトニン濃度が低いときには、実際に衝動的に目先の報酬を選びがちーセロトニンがたりないと、20分後の20円より、5分後の5円を求めるーことになるのだそうです。
 このセロトニンについてこれまで私は眠りを疎かにすることでセロトニンの働きが低下する可能性、そしてセロトニンの働きが低くなることで、心の穏やかさが失われる等の問題点が生じる可能性を指摘してきました。睡眠時間減少→自殺急増 に関する直接的な証拠はありません。またこの年の自殺急増も通常はこの年に最終的にバブルがはじけたこと(山一証券の2度目の倒産劇が象徴)との関連が指摘されています。ただ経済的な問題がきっかけになったとはいえ、その背景に眠りの問題があることを私は関連を考えてみたくなるわけです。
 ではセロトニンを高めておけば自殺をしないかというと、必ずしもそうではありません。うつ病の治療としてセロトニンの働きを高める薬を開始した後にかえって自殺が生じることもしばしば指摘されています。ただ最近では眠れないことー不眠ーと自殺衝動との関連が指摘され、不眠を切り口とした自殺予防対策を積極的に行っている自治体(静岡県富士市)も出てきています。
 突然ですが、ここで「絵本の読み聞かせ」です。絵本の読み聞かせは、読み手が相手の反応をみながら、声の大きさ、調子や抑揚を変えながら行うことが醍醐味です。早く寝かせようと、一部を飛ば読みしたりすると、子どもはすぐさま反応します。「飛ばしちゃダメ」。そんなやりとりが絵本読み聞かせの魅力であり、大切なところです。これは経験論でした。ところが私の大学の同級生、現在日本大学教授の泰羅 雅登氏がこのような経験論の背景にある脳内メカニズムを発見したのです(http://www.asahi.com/edu/student/atama/TKY200812160336.html)。まず子どもの脳ですが、絵本の読み聞かせをされている子どもの脳では大脳辺縁系(気持ちの脳、感じる脳)、泰羅教授のいう心の脳の活動が高まるのだそうです。実はこれ以上に気になったのは、読み手の脳の変化です。お母さんの脳では、絵本をただ音読している時には活動していなかった前頭前野が、読み聞かせをしている時には実に活発に活動していることがわかったのです。
 前頭前野はヒトの知恵の源のみならず、イライラ感や衝動性を抑える働きにも関わっています。お母さんの精神的な安定を図るうえからも絵本読み聞かせは大切なのかもしれません。前頭前野のセロトニンが減ることと自殺との関係も指摘されています。脳の仕組みには男女で違いがあるので一概には言えませんが、絵本の読み聞かせをお父さんがすることによって、働き盛りのお父さんの危機回避(自殺防止)にもつながるのではないかと期待を寄せたくなってしまいます。たかが読み聞かせ、されど読み聞かせ、と言えるかもしれません。 お父さんもっと読み聞かせをして!!

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