ページタイトル 睡眠衛生の基本(付 過剰なメディア接触の問題点)

対象者: 一般向け

睡眠衛生の基本(付 過剰なメディア接触の問題点)

 睡眠衛生の基本は朝の受光、日中の活動の保障、睡眠環境の整備です。
 早起きをすることで朝の受光機会が増し、セロトニンの活性化とともに生体時計の同調が容易となり、内的脱同調に陥る危険は軽減します。その結果昼間の活動性の高まり、運動量の増加が脳由来神経栄養因子、セロトニン活性増加を介して学習機能を向上させ、感情制御に好影響を及ぼします。昼間の運動は就床時刻を早め、日中の受光量増加を介して夜間メラトニン分泌量を増加させます。夜間睡眠に対してのみならず、抗酸化作用による全身への好影響も期待できます。結果的に睡眠時間の確保が得られ、睡眠不足に伴う種々の不都合からも回避されます。これらが朝型が機能的に活動できる背景のメカニズムでしょう。
 新生児マウスを恒常的に明るい環境で飼育すると、生体時計を構成する神経細胞間での同調が困難となるとのことです。現在日本の子どもたちの活動は室内が多くなってきています。自然光は人工光よりも照度が高いのです。必然的に今の子どもたちの活動環境では生体時計の同調が難しくなります。小さい頃の生活パターンは思春期の生活パターンに影響します。明暗のメリハリをつけ、昼には昼らしい、夜には夜らしい生活環境で、子どもたちが睡眠覚醒リズムの同調に混乱を来さないようにすることが、思春期以降のリズム障害を予防する意味からも重要でしょう。なお今後は光の波長(色)への配慮も重要となるでしょう(460nm(白色)~470nm(青色)が覚醒効果が高いといわれています)。
 情報化社会では、すべてがヒトのセロトニン活性を低下させやすいようです。ヒトはセロトニンやメラトニンの活性の高め方を学ばなければなりません。私はスライド1(すでレポートで紹介)を啓発活動に利用しています。悪循環「夜ふかし→睡眠不足・朝寝坊→昼間の活動量低下→眠れない・セロトニン活性低下」を断つために大切なことは、朝の光と昼間の活動です。早起きをして朝の光を浴び、日中タップリと活動をするという生活リズムこそが、ヒトがその潜在能力を最大限に発揮するための必要条件といえます。無論21世紀には多様性がますます進行します。万人にあてはまる処方せんはもはや存在しないでしょう。しかしそれでもヒトは周期24時間の地球で生きる動物で、夜は暗所で眠り、朝の光を浴び、そして昼間行動することがその個体の潜在能力を最大限に発揮するには大切だということを強調しておきたいと思います。
 もっとも私も何が何でも「早起きから」と杓子定規に唱えるつもりはありません。早起きばかりを強調しすぎると、夜ふかし早起きに陥る場合も出てきてしまいます。夜ふかし早起きでは睡眠不足が深刻になることは当然です。特に思春期の患者さんでは、必要に応じて超短時間作用型の睡眠導入剤を使用することに私も躊躇はありません。なお睡眠不足の問題点についてもすでにレポートでまとめました。
 「なかなか寝ない子」は睡眠不足となり、その結果昼間の行動面への悪影響(不活発、怒りっぽさ・注意力の減退等)が生じ得ます。これはまた二次的に児の夜間睡眠を困難にし、その結果養育者の睡眠不足、養育者間の衝突、養育者から児への否定的感情等も生み、さらに夜ふかし朝寝坊をもたらすという悪循環に陥る危険があります。無論寝入るための条件整備が困難な住宅事情等も「なかなか寝ない子」をもたらしますが、夜ふかしを是認する社会通念や過剰なメディア接触(テレビ、ビデオ、パソコン、携帯電話等)の容認も、不適切な睡眠衛生の結果「なかなか寝ない子」をもたらします。
 以下ではメディアについて私見を述べます。
 実際に視聴しているかどうかに関わらず、テレビがついている時間の長い家庭ほど子どもたちの就床時刻は遅いことがわかっています(スライド2)。幼児の遅寝に影響する因子の調査(スライド3-6)によると、上位3項目は「子どもと一緒に夜9時以降のTV娯楽番組を見る」「子どもが夜コンピューターゲームをする」「遅く帰った家族が寝ている子どもを起こす」とのことです。服部伸一らは「テレビ視聴時間の短い幼児は、就寝時刻が早く、就寝・起床のリズムが規則正しくなり、食習慣や排便習慣も良好」だが「テレビ視聴時間の長い幼児は、就寝時刻が遅くなり、睡眠時間が短くなるとともに、就寝・起床のリズムが不規則となり、また、朝食摂取が十分でなく、偏食傾向がみられ、間食摂取時刻が不規則であった」と述べ(スライド7)、「夕食中及び夕食後から就寝までのテレビ・ビデオの視聴時間を調整することにより、幼児の就床時刻を早められる可能性」を述べています(スライド8)。ベルギーの中学生が週に20時間前後もメディアと接触し、その結果就床時刻が贈れ、疲労感が増えているという警鐘が鳴らされました(スライド9)。ちなみ日本の小学生の過半数は週平均の42時間(年間で2200時間)以上メディアに接触時間しています(日本の小学校の授業時間は1100時間)。桃山学院大学の高橋ひとみ教授が大阪府下の小学校で行った調査(スライド10)によると、平日夜9時前に寝る子どもたちのテレビ視聴、携帯ゲーム、テレビゲームを合わせたメディアとの接触時間の平均は2時間弱でしが、平日深夜0時以降も起きている子どもたちでは、メディアとの接触時間は7時間近くにもなっていました。平日に7時間メディアと接触するということは、年間で2500時間に達します。ニュージーランドから26年にわたる追跡調査の結果(スライド11)として、小児期から思春期にかけてのテレビ視聴時間が、成人後の肥満、健康不良、喫煙、高コレステロール血症と関連していることが明らかにされました。私は過剰なメディア接触が奪うものとして、眠りと運動に加え、生身の人間との直接接触をあげています(スライド12)。生身の人間との直接のface to faceでの接触の機会減少は、対人関係のスキルの稚拙化を生み、これがいじめや自殺の背景因子となることを危惧します。セロトニン活性低下も対人関係のスキルの稚拙化の増悪因子でしょう。

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