ページタイトル 「ゆう活(夏の生活スタイル変革)」(朝型勤務と早期退庁の勧奨)の施策に反対します。

対象者: 一般向け 医療関係者向け 教育者向け

「ゆう活(夏の生活スタイル変革)」(朝型勤務と早期退庁の勧奨)の施策に反対します。

 平成27年2月12日の安倍内閣総理大臣の施政方針演説にある「昼が長い夏は、朝早くから働き、夕方からは家族や友人との時間を楽しむ。夏の生活スタイルを変革する新たな国民運動を展開します。」を踏まえ、長時間労働を打破し、働き方を含めた生活スタイルを変革する国民運動を、政府を挙げて展開している、との意向のもと、国家公務員については、率先して取組を進めることとし、内閣府においては、本年7月及び8月は「ゆう活(夏の生活スタイル変革)」(朝型勤務と早期退庁の勧奨)を実施することとしており、これに伴い、内閣府全体として超過勤務縮減を図る施策が2015年7月1日から展開されています。
 これに対する官庁勤めのある友人の率直な感想です。「今厚生労働省の研究所で部長しています。官庁関係は、1時間早めるのですが、夜遅くまで海外との電話会議しなくちゃいけないのに、いきなり1時間早く行かなくてはならず、気持ちが凄く滅入ってしまいました。早く起きて早く帰れば子育てと介護問題が解決するものではありませんし、私の年では子供いる人だって子育てから解放されて、やっと思い切り働いているんです。子育てと介護のために早く帰れるという理屈があるらしいですが、何か釈然としません。」
また別のやはり厚生労働省管轄に勤務する友人ですが、この施策に対する懸念をFBで表明したところ、本庁からその件について電話が入ったとのことでした。今や研究者の研究費も国が相当部分関わっており、たとえ学問的には正しくとも、お上のご意向には逆らい難い状況が醸成されつつあります。昨今の与党によるマスコミ批判も合わせ考えると、得も言われぬプレッシャーが国全体に蔓延しているとの危機感を抱くのは小生だけでしょうか?
 私神山は一般社団法人日本睡眠学会のサマータイム特別委員会のメンバーとして、2012年3月に刊行された「サマータイム ―健康に与える影響―」と題した小冊子(http://www.jssr.jp/data/pdf/summertime_booklet_0507.pdf)編集に関わりました。この小雑誌では、サマータイム導入議論に際し、健康問題についてはほとんど触れられていない点が問題と指摘、サマータイムが健康に与える影響を3点すなわち1.生体リズムへの影響、2.眠りの質への影響、3.眠りの量への影響、に焦点を絞って解説いたしました。今回の「朝型勤務と早期退庁の勧奨」については、1.生体リズムへの影響は少ないと予測されるものの、3.眠りの量(十分な睡眠時間)への影響が大いに懸念されます。
 私神山は今回の「ゆう活(夏の生活スタイル変革)」(朝型勤務と早期退庁の勧奨)の施策に対し、以下の理由から明確に反対します。
1.「ゆう活(夏の生活スタイル変革)」(朝型勤務と早期退庁の勧奨)の施策には勤務時間を1時間程度前倒することへの対応としての夜間の就床時間前倒しに関する対応策の記載はなく、逆に「ゆう活」(夕方から家族や友人との時間を楽しむ)を挙げています。これでは睡眠時間短縮の奨励です。
2.わが国の成人では睡眠6時間以下(7時間未満)の割合は71%です(平成23年国民健康・栄養調査:第62表http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_xlsDownload_&fileId=000006395393&releaseCount=1)。なお米国における睡眠6時間以下(7時間未満)の割合は29%です(Ford et al. SLEEP. 2015)。
3.日本人の睡眠時間は過去50年で約60分減少していますが、このような急激な変化は生物学的な許容範囲を越えている可能性があります(Kohyama 2010、2011、2012)。
4.米国では若者(18-25歳)、成人(26-64歳)の望ましい睡眠時間として7-9時間が推奨されています(http://sleepfoundation.org/how-sleep-works/how-much-sleep-do-we-really-need)。

 以上より、この施策には、「人間が睡眠を必要とする生物である」という基本的な視点が欠如していると言わざるを得ません。この取り組みの結果、さらに多くの方が睡眠不足症候群に苛まれる危険が高いと危惧します。なお睡眠不足症候群では,正常な覚醒状態を維持するために必要な夜間の睡眠をとることができず眠気が生じます。患者さん自身は慢性の睡眠不足にあることを自覚していません。症状は攻撃性の高まり、注意や集中力・意欲の低下、疲労、落着きのなさ、協調不全、倦怠、食欲不振、胃腸障害などで、その結果さらに不安や抑うつが生じる場合もあります。
 なお朝型勤務に対応する保育施設の整備も不十分と想像します。
 以上「ゆう活(夏の生活スタイル変革)」(朝型勤務と早期退庁の勧奨)の健康に及ぼす懸念を表明し、この施策に反対します。この取り組みの中止、ないしは就床時刻の前倒しの重要性を併記することを具申する次第です。



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