2010年5月24日付の産経抄に一言。古筆学の権威、小松茂美さんを称える内容に異論は全くない。ただ「80歳を過ぎるまで、睡眠時間が4時間を超えることはなかったという。」との一節はいかがなものであろうか?
日本人の睡眠時間(10歳以上)は2005年までの45年間で51分減少し(スライド1)、今や世界有数の短時間睡眠国家(スライド2のデータは18-64歳)であり、しかも睡眠時間の減少は1995年以降その割合が減り(スライド1)、ひょっとしたら日本人の睡眠時間はこれ以上減らすことの難しい生物学的な限界にまで減ってしまったのでは?との危惧もある。また週50時間以上就労する労働者が世界で唯一25%を超える(スライド3)残業立国だ。しかし労働生産性はOECD加盟30カ国の平均以下で、先進国内で最下位だ(スライド4)。産経抄は短時間睡眠の勧めである。たしかに日本では睡眠時間を切り詰めることが勤勉の証であり、それが暗に求められる社会が日本社会だ。しかしヒトにとって必要な睡眠時間には個人差がある。短時間睡眠で能力を発揮できる方もいようが、長時間睡眠が必要な方もいるのだ。寝ないと太り(スライド5)、死亡の危険が高まり(スライド6)、寝不足が万病のもとである事も様々なデータが示している(スライド7, 8)。また17時間の連続覚醒は、ヒトの認知能力レベルをほろ酔いレベルにまで低下させる(スライド9)。乗るなら眠れ、だ。さらに睡眠不足は自殺との関連も指摘されているが、日本の自殺者数は過去12年間3万人超の高止まりである(スライド10)。内閣府は自殺防止に「眠れてますか?」とのキャンペーンを張っている(スライド11)が、日常的には眠りを疎かにせよ、との無言の社会通念の圧力がある中で、「眠れていますか?」と突然のように脅かされても適切な対応がとれるものであろうか。普段からスリープヘルス(朝の受光、昼間の活動、夜間の暗い環境、規則的な食事、不適切な物質(カフェイン、アルコール、ニコチン)環境(過剰なメディア接触)の排除)(スライド12)を社会全体が念頭に置くことが何より重要であろう。実際睡眠時間が減りようがなくなった3年後から急に自殺者は3万人を超えている(スライド13)。日本人が寝ることで自殺は減るのではないかとすら考えてしまう。眠りを疎かにしない社会通念の醸成に産経抄も是非とも一役買っていただきたい。
なお睡眠時間だけではなく、いつ寝るかも大切で、夜勤勤務(交代制勤務)含め、夜型生活が心身に望ましくないことを示すデータも少なくない(スライド14)。 |