ページタイトル 昼寝について

対象者: 一般向け

昼寝について

<はじめに>
 生後3~4カ月以降になると、昼間の眠りは夜間に比べ明らかに減り、次第に付加的な短時間睡眠である“昼寝”となります.昼寝が午前・午後各1回になる時期は日本では生後8カ月頃,米国では生後9~12カ月,昼寝が午後1回になるのは日本では1歳2カ月以降,米国では15~24カ月との報告があります。そして5~6歳頃からは昼寝をしなくなる場合も多くなります。しかし昼寝はまた文化的な影響も受け,昼寝を容認している地域では昼寝の習慣は生涯続きます。昼寝をとる時間帯(午後2時前後)は明け方ともに,人間の眠気が生理的に強くなる時間帯で,交通事故の頻度が高まる時間帯でもあります.昼寝は合理的な生存戦略ともいえます.
<私の調査結果>
 練馬区:1999年7月から9月にかけて練馬区でおこなった調査結果を紹介します。1歳6カ月児の96%,3歳児の46%が毎日昼寝をしていました。ただし昼寝をまったくしない1歳6カ月児もおり,3歳児では10%が昼寝をまったくしていませんでした。毎日昼寝をする1歳6カ月児のうち6.8%が昼寝を1日に2度(午前,午後の各1回)取っていたのですが、毎日昼寝をとる他の1歳6カ月児,ならびに3歳児は昼寝を午後に1回だけとっていました.昼寝の開始および終了時刻が遅くなるにつれ、夜の就床時刻も遅くなっていました(1歳6カ月児のデータが図1、縦軸は夜の就床時刻。)。昼寝の終了時刻が午後3時30分よりも遅いと、夜間就床時刻は午後10時以降となっていました。
 草加市:1999年9月から2000年3月に埼玉県草加市でおこなった3歳児の調査では、33.8%が毎日昼寝をし、13.4%が昼寝をまったくしない、とのことでした。毎日昼寝をする児で昼寝の開始、終了時刻と夜の就床時刻との関係を調べたところ、昼寝の開始および終了時刻が遅れると、夜の就床時刻が遅れることがわかりました。平均の昼寝終了時刻は,夜の就床時刻が午後10時前の児では午後3時5分,就床時刻が午後10時以降の児では午後4時14分でした.
<この調査結果を得た当時の結論>
 夜ふかしが多くの問題点を抱えていることを考えて、「昼寝は午後3時30分前には切り上げて」と提唱するようにしました。
そして「昼寝をするのは早起き早寝を妨げますか?」といったご質問にも以下のように回答していました。(早起き脳が子どもを伸ばす 第2章 Q&A)
 昼寝をタップリととってしまうと、当然夜の眠りに影響します。私の調査でも、3時半以降も昼寝をしていると、どうしても夜の寝付く時刻は午後10時以降になっていました。
 ただ注意していただきたいのはこのQ&Aのように一問一答式で、「昼寝は早寝を妨げる」、と言ってしまうと、この部分だけが取り上げられて、場合によっては「昼寝はよくない」などと誤って捉えられてしまうことがあり心配です。昼寝だけでなく、夜の眠る時刻、朝起きる時刻、昼間の運動量はすべて密接に関係しています。決して一つのことだけに注目して話を決め付けないでください。「子どもの早起きをすすめる会」でお願いしているのは、早起きをして朝の光を浴びること、昼間たっぷりと活動をすることが周期24時間の地球で生きる生物がその潜在能力を最大限に発揮する上できわめて重要であることを知っていただいたうえで、子どもたちが元気に生きていけるように、子どもたちの生活全般に目を向けていただきたいということです。どうか子どもたちの生活を部分部分に切り分けないで、丸ごと全体で受け止めて、考えてあげてください。
<ある講演会で>
 ところがある講演会で、このこと(「午後3時30分前には切り上げて」)を話したところ、あるお母さんがおずおずと手を挙げられたのです。そしておっしゃったのです。「うちの子は、午後1時半から4時半まで昼寝をして、午後6時には夕飯を食べて、午後7時半には寝ます。それでも昼寝から起こしたほうがいいのでしょうか?」私はお伺いしました。朝は何時に起きていますか?午前中のご様子は?お食事は?お答えは「朝は6時には起き、午前中は元気一杯、食事は3回たっぷり食べる」でした。そこで私のお答えは「夜ふかしにはなっていないのですから、昼寝を早めに切り上げる必要はありませんよね。」
<最近話す内容>
 この講演会でのご質問は大変重要です。たしかにこのお子さんは他のお子さんよりも睡眠時間は多いのかもしれません。しかし早起きをし、午前中は元気に過ごし、早寝をしているのです。全く問題はありません。望ましい生活習慣の条件(朝の光を浴び、昼間は身体を動かし、夜は暗いところで寝て、食事をきちんととる)をすべてクリアしています。 
実はこれ以前も私は何時に寝よう、何時に起きよう、何時間寝よう、ということは決して申し上げず、極力数字は出さないようにしていたのです。ところが昼寝については数字を出してしまっていたのでした。数字は出してしまうと、その数字のみが独り歩きしてしまうのです。たとえば起床時刻。○時に起きよう、と言ったとします。するとお母さんの中には、今日は起きる時刻が○時15分になってしまった、というようなあまり本質的ではないことで悩まれてしまう方も出てきてしまうのです。このご質問をいただいた後は「夜ふかしになるのなら、昼寝は早めに切り上げて」と提唱するようにしています。
<午前寝について>
 以下は「午前睡の効用に関する学会発表を伺って」と題したすでに発表済み(保育と保健2007年1月号)の文章です。
 午前睡について、あえて生物学的な観点から考えました。
 ラットは夜行性です。そこでラットは通常昼間にはえさを摂りません。ただし、えさを夜に与えないで、昼間にのみ与えるようにすると、夜行性のラットでも昼間にえさを摂るようになります。「腹時計」に従った行動です。「食事」が「朝の光」とともに動物の生活リズムを規定する重要な因子であることは経験的には知られていました。「朝の光」については、脳内の視交叉上核にある生体時計に、眼に入った光刺激が神経を伝わって作用して、周期が24時間よりも長い生体時計の周期を短くして周期が24時間である地球時間とのずれを直すことがわかっています。一方「腹時計」については、今年になって視床下部の背内側核に存在し、この時計がえさを摂るタイミング(食事のタイミング)に合わせた時刻を刻んで、動物の行動をコントロールしていることがわかりました。約48時間は食事を摂った時刻を記憶しているようです。
 一方ヒトは昼行性です。そして一般的には午前10時から12時に覚醒度が一番高くなります。ただし乳児期には長時間連続した眠り、あるいは覚醒の維持が難しく、睡眠覚醒が細切れです。その結果生後15ヶ月ほどまでは午前睡も珍しくありません。私は午前中にしっかりと目が覚めるのは2歳以降と考えています。つまり2歳以降の午前睡は動物としてのヒトの本来のリズムとは相容れないと私は考えています。ではなぜ本来相容れない生活リズムであっても現実に「午前睡をして元気な子どもたち」がいるのでしょう?おそらくそれは「慣れ」あるいは「習慣」のせいでしょう。「習慣」が生活リズムを形成する上で極めて大切なことを多くの方は実感していますし、「習慣」が本来の生活リズムを凌駕できることは、昼間にえさを摂るラットの実験からも明らかです。ただし「習慣時計」がどこにあってどのように働いているのかについてはまだわかっていません。
 では「午前睡」を勧めてよいのでしょうか?私の考えは現時点では否です。現実のヒト社会では午前睡が習慣化している社会は私の知る限りありません。これは午前睡がヒトという動物にとって必ずしも有益ではないことの傍証ではないでしょうか?また午前睡を身につけた子どもたちが、小学校の午前中の授業に不適応をおこすのではないかと不安です。さらに現実社会に適応するためには、子どもたちはどこかで午前睡の習慣を断ち切る必要があります。習慣を変えることの影響についても、経験がないだけに私としては不安です。また「午前中に元気が無い子ども」がいることが午前睡導入のきっかけならば、午前睡の勧めは午前中に元気をだすことができない生活習慣(たとえば夜ふかし朝寝坊)を固定化することになるのではないでしょうか?ヒトが本来最も覚醒度が高くあってしかるべき時間帯に子どもたちを活気ある状態に持っていく努力こそが、今大人に求められている姿勢と私は考えます。ただし「習慣時計」の解明で新たな知恵が生ずる可能性があるとも考えています。
<昼寝の効用>
 通常昼寝を取る時間帯は午後2時前後ですが、この時間帯はヒトが生理的に眠くなる時間帯です。この時間帯の眠気については、昼食のために眠くなる、と考えている方が多いと思いますが、昼食をとらなくともこの時間の眠気はやってきます。また食事を一定の時間おきに与えるという実験を行っても、午後の2時前後には眠気が強くなります。もし食事のせいで眠気が来るのでしたら、朝食の後や夕食の後にも眠気はやってくるはずです。ところが朝食後の午前の10-12時は通常覚醒度の最も高い時間帯であることがわかっています。午後2時前後と明け方の4-6時は、ヒトの眠気が生理的に強くなる時間帯なのです。そしてさまざまな事故、作業ミスもこの時間帯に多く発生することが知られています。実りある会議をしようとするならば、午後2時前後の時間帯は避けた方がよいということになります。
 なお午後2時前後の短時間の眠りがその後の作業能率を高めることは実証されています。ただし30分以上寝てしまうと深いノンレム睡眠にまで入ってしまい、目覚めたあともしばらくボーとなってしまうようです。30分以内の昼寝を習慣的にとる人はアルツハイマー病にかかる危険が低く、30分の昼寝には単なる休憩とは異なり血圧を下げる効果もあり、意欲的な高齢者は、意欲の低い高齢者よりも昼寝を習慣にしている方が多いのだそうです。午後眠気に襲われたならば、眠気撃退法などを考えたりせずに、積極的にうたた寝をすることをお勧めします。ただしあくまでうたた寝です。お布団を強いてしっかり寝るのでなく、机にうっつぶしてのうたた寝がおすすめです。堀  博士おすすめの昼寝のとり方は、午後2時にお茶つきのおやつを10分ほどで取り、その後20分程度うたた寝をするというものです。ここでのポイントは、お茶に含まれるカフェインの効果発現までには「お茶」を飲んだあと約30分かかるという点です。カフェインが効きだす頃に昼寝を切り上げるわけです。これでその後の作業能率の向上が期待できるのだそうです。
 あるとき、小学校5年生向けの雑誌の取材を受けました。9月号の記事で夏休み中にだらけた子どもたちの生活をしゃきっとするための、眠気撃退法についてアドバイスがほしいというものでした。答えは決まっています。「眠気撃退法などあるわけがない。眠気がきたら寝るしかない。そして眠った後でどうしてその時間帯に眠くなったのか?その理由を考えてほしい。」そう申し上げました。取材にいらした記者の方はしばらくは唖然としていらっしゃいました。それでも私がそのように話すそのわけを逐一説明すると、最終的には私の話を理解してくださり、結果的には「どうしても眠気が取れないときには、午後2時から4時の間だったら昼寝をしちゃおう」という記事を載せていただくことができました。この記事を読んで小学校の先生がどのような反応をなさったのかについてはわからないのですが、ともかく、眠りの基礎知識の一部を伝えることはできたのかなと思っています。
 なお最近では昼寝を取り入れることで進学率が好転した高校も登場してきています(図2)。

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