今最も輝いている女性の一人、勝間和代氏は本日(2008年10月20日)の産経新聞「仕事の周辺」で日本の労働生産性と資本生産性の低さに触れ、特に低い労働生産性の原因として長時間労働と過当競争を挙げています。
私はかねてから日本で夜ふかしをもたらすものとして残業が美徳となっている社会通念を挙げ、これが眠りを奪い、労働生産性を含む人間の力を損なっている、と指摘してきました。
折りしも本日発売の週間東洋経済2008年10月25日号は特集が「家族崩壊」で、サブタイトルは「考え直しませんか?ニッポンの働き方」です。
(スライド1)今日本は,週に50時間以上労働している就労者の比率が世界で唯一25%を越えている残業国です。
(スライド2)大手企業でも3社に1社が月の残業時間が100時間を越える社員を抱えているそうです。月の残業時間は80時間を越えると過労死の危険があるレベルです。
(スライド3)ある官庁の方の残業についての話です。特に国会会期中の残業ですが,これには議員の方の質問に対する対応が相当部分関係するそうです。議員の方はあらかじめ国会質問を提出するそうですが,中には質問の前夜,遅くなってからの質問提出もあるそうです。官僚の方はそれから徹夜で答弁書を作成します。こう申しては官僚の方に失礼かもしれせんが,日本の国会で読み上げられている答弁書は,冷静な理性あるいは明晰な頭脳というよりは,どちらかというと気合いと根性で作成されているというわけです。そのような徹夜の作業を官僚の方はやりがいのある仕事と感じています。議員の方々の意識改革が重要ですが,多くの官僚の方は骨の髄まで「残業が美徳」という前時代的な発想に染まりきっているのです。ただ,この発想に染まりきっているのは,なにも官僚の方ばかりではないようです。日本人全体が残業を美徳として感じている民族だと思います。
(スライド4)このため,日本人の睡眠時間がどんどんどんどん減ってきています。
(スライド5)総務省が去年の11月にまとめたデータです。過去20年の調査期間中で最短になったのですが, 2007年11月4日付けの毎日新聞の記事はこの結果を「寝不足で懸命に働く日本人」とまとめました。
ある文学部で講義をしているのですが,このデータを見せて,学生諸君にいいキャッチフレーズを考えろ,いいまとめを考えろということを課題に出しました。「寝るより仕事,寝言も仕事,死ぬまで仕事」非常によく考えてくれたのですが,学生諸君が1・2年でこの社会に入っていくと思うとぞっとしてしまったわけですが,こういうことを知りつつ,社会を変えて行って欲しいと思うわけです。
(スライド6)労働生産性とは一定時間内に労働者がどれくらいのGDPを生み出すかを示す指標です。言ってみれば,労働の効率を示す指標です。2004年のデータです。世界3位のアメリカを100とすると日本は,OECDの平均75を下回っています。先進7カ国で最下位です。つまり,日本は睡眠時間を犠牲にして残業をして,極めて効率の悪い仕事をしていることになります。
(スライド7)そろそろ時間をかければ仕事がはかどる、という幻想から抜け出たいものです。「寝不足で懸命に働く日本人」ではなく、正しくは「寝不足で賢明に働いている気になっている日本人」なのではないでしょうか。
(スライド8)アメリカの経済誌では,「睡眠不足が企業リスク」だと言われ,
(スライド9)フランス政府も「国民よ,もっと眠れ」という安眠促進キャンペーンを始めています。
(スライド10)無論「睡眠不足は命のリスク」です。
(スライド11)誰からも眠れ、休めとは言われず、残業をしても仕事は終わらず、さらにストレスは増し、眠れず、朝の光を浴びたり身体を動かすこともままならず、セロトニンは枯渇し心はゆとりを失い、攻撃的になり、この攻撃性がしばしば自分に向けられ、不幸な結果を迎えているのではないでしょうか。 なおセロトニンについては別に項目を設けて説明しています。ご参照ください。
(スライド12) 静岡県の富士市は「うつ自殺予防対策モデル地区」に指定されており、不眠をチェックして鬱病の早期発見をつなげようという「睡眠キャンペーン」を行っているとのことです。
このキャンペーンは『パパ、ちゃんと寝てる?』のキャッチコピーで静岡県全県で実行されました。「睡眠キャンペーン」は、働き盛りの世代の心の健康づくりのたのキャンペーンで、静岡県や医師会などが協力して進めています。「『睡眠キャンペーン』で一番大切なメッセージは、「2週間以上続く不眠はうつのサイン」です。詳しくは下記のURLをご覧ください。
行政が「眠り」を取り上げたおそらくは日本で始めての施策として評価したいと思います。今後はぜひメタボリックシンドロ-ム対策にも眠りの重要性を入れていただきたいと思います。なにせ「寝ないと太る」は、いまや世界の常識なのですから。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/06-2/kekka5.html
http://www.pref.shizuoka.jp/kousei/ko-810/papa/
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