ページタイトル 成長ホルモンについての誤解

対象者: 一般向け 教育者向け

成長ホルモンについての誤解

 寝ると成長ホルモンが出る、という話を聞かれたことがあると思います。これは正しいことです。1950年代に日本の科学者(高橋康郎博士)が発表した世界に誇るべき研究成果です。成長ホルモンは骨を伸ばし、蛋白の合成を促します。「寝る子は育つ」という格言の根拠として様々な形で紹介されました。そんな中どうも高橋博士が発表なさった研究結果を解釈するときに、誤解が生まれたようです。高橋博士は「成人男性で睡眠開始時刻を早めたり遅らせたりすることが成長ホルモン分泌にどのような影響を及ぼすか」を目的に研究を行い、「睡眠開始時刻に連動して寝入りばなに成長ホルモンが分泌する」、という実験結果を報告なさいました。ところがこの実験結果を発表した図では、入眠時刻が遅くなった時の成長ホルモンの分泌量が通常の入眠時刻の場合よりも低かったのです。そこで、どなたかがこの点に着目し、「夜ふかしでは成長ホルモンの分泌が悪くなる」と余計な判断してしまったようなのです。そしてわかりやすさも手伝って「夜ふかしでは成長ホルモンの分泌が悪くなる」という誤解が広まったようです。でも高橋博士の実験はあくまで1例での結果で、なにより実験を行った高橋博士ご自身が分泌量の低下については意味のある差であったとは述べていらっしゃいません。その後多数例で検討した結果、夜ふかしをしても、成長ホルモンの分泌量は減らないことが確かめられています(スライド1)。成長ホルモンは寝入って最初の深い眠りに一致して多量に分泌されるのです。もちろん時刻によって分泌が決められているわけではありません。2005年発行の睡眠の世界的な教科書にも「入眠時刻が早まっても、遅れても、また眠りが妨げられた後の再入眠に際しても、成長ホルモンの分泌は睡眠開始が引き金となって生じる」とあります。当然「成長ホルモンは0-3時に最も多く分泌される」などということもありません。
 成長ホルモンは夜ふかしをしても寝入ってすぐの深い眠りのときに出ますが、寝ないでいてはでるはずがありません。ところがじつは最近の研究で、徹夜をしても翌日昼間に出てくることがわかったのです(スライド2、3)。だからと言って私が「徹夜をしても成長ホルモンは出るのだから、徹夜をしてもいい」と言うつもりはありません。それは、成長ホルモンが分泌されているとは言っても、夜ふかしの状態で、成長ホルモンがきちんとその役割を果たしてくれるのかどうかはわかっていないからです。
 「眠るのは成長ホルモンを出すため」だけではなく、寝ることの重要性はもっともっとたくさんの事柄に及ぶ、ということをわかっていただきたいと思います。

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