ページタイトル ヒトは寝て食べて、はじめて活動できる動物。

対象者: 一般向け

ヒトは寝て食べて、はじめて活動できる動物。

 皆さんも睡眠時間が少なかったり夜ふかしすると、イライラしたり集中力が無くなったりする経験があると思いますが、寝るのが12時過ぎ、朝ごはんを抜いている子どもたちはイライラ感が強いというデータが出ています(スライド1左)。また睡眠時間が減ると学力が低下するというデータも出ています(スライド1右)。このデータは「百ます計算」で有名な陰山英男先生(現立命館大学教授)が、尾道市立土堂小学校の校長時代に取られたデータです。陰山先生は「百ます計算」で有名ですが、その大前提が早起き、早寝、朝ごはん。早起き、早寝、朝ごはんをして初めて「百ます計算」に耐えられる脳みそになるのだとおっしゃっています。
 この図には他にもポイントが二つあります。一つは、広島県の小学校5年生で睡眠時間5時間以下の子がいるということ。いったいどういう生活パターンになっているのか考えても少しぞっとします。ポイントの2つ目は10時間以上寝ていると学校の成績が下がっている点です。これをどう考えるか。陰山先生に直接この点について伺ったことがありますが、先生は「それだけ寝ていれば勉強する時間も無いからね」とおっしゃいました。それも一つの解釈ですが、私自身のちょっと違う解釈をご紹介します。
 2003年の2月26日、新幹線「ひかり号」の運転手が岡山駅でオーバーランした事件がありました(スライド2)。その運転手さん、実は前の晩10時間寝ているのです。事件から1週間後、この運転手さんは睡眠時無呼吸症候群という病気だとわかりました。睡眠時無呼吸症候群という病気があったために、10時間寝ていても眠りの質が悪くて、しっかりと起きていることが出来なかった、というわけです。そこで10時間以上寝ていると学校の成績が下がる、と言うことに戻りますと、10時間以上寝ている子どもたちの中には睡眠時無呼吸症候群、あるいはむずむず脚症候群といった、眠りの質を悪くする何らかの病気をもっている子どもたちもいるのではないか、という解釈です。10時間以上寝ても眠りの質が悪くて、しっかりと起きていることが出来ず、成績が良くならない、と言う可能性も考えておく必要があると思うのです。なお居眠りをした新幹線の運転手さんは、書類送検されてしまいました。賢明な岡山地検の判断で起訴はされませんでしたが、送検されたと言うことは、眠りに対する世の中の認識の稚拙さをあらめて思い知らされました。詳しくはスライド3をご覧下さい。
 もう一つ、学力と就寝時間の関係についてお話します。スライド4は福岡のデータですが,小学校の高学年で、学力上位群と下位群に分け,夜の寝る時間を調べたデータです。学力上位群の半分は9時半前に寝ていますけれども,10時半以降に寝るグループに学力上位群は全くいません。考えてみればごくごく当たり前ですが、いくら夜遅くまで勉強しても,塾に行っても,睡眠時間を犠牲にしていたのでは学力という活動の質の向上には結びつかないのです。人は寝ないと活動の質が高まらない、ということになります。
 今は眠りと活動でしたけれども,今度は食と眠りです(スライド5)。今,日本人は10人に一人が朝ご飯を食べていません。朝食欠食率が10%、ということになります。スライドでは夜の寝る時刻と、朝ごはんを食べない子どもたちの割合の関係を示していますが、夜8時前に寝る子どもには朝食を食べない子どもは少ない、すなわち朝食欠食率は低いのですが、寝る時間が0時以降になる子どもでは半分以上が朝ごはんを食べていない、朝食欠食率が高い、ことがわかります。寝ないと食欲も出てこないことがわかります(スライド6)。スライド7は2007年秋の江戸川区の小学校での調査結果ですが、夜ふかしになるにつれ、朝の食欲がない児童の割合が増えています。やはり寝ないと食欲は出てこないのです。2008年3月には朝食抜きの方が肥満になる、という調査結果も出ています(スライド8)。
 次は皆さんも良くご存知でしょうが、毎日朝食を摂る子どもほどペーパーテストの点が高いというデータです(スライド9は2007年のデータ、スライド10は2003年のデータ)。朝食を毎日摂っている子どものほうがどの教科でも、中学2年生、小学5年生どちらの学年も点数が高い。ほとんど朝食を摂らない子どもたちは非常に点数が低いとのデータが出ています。このようなデータが出てきたものですから、文部科学省も「早寝、早起き、朝ごはん」を始めました。朝ごはんを食べるようになれば勉強の成績が良くなるだろうという発想からでしょうか。しかし、朝食を摂ったかどうかというのは、あくまで生活習慣が、きちんとしているかどうかの一つの目安に過ぎないのです。朝ごはんだけ食べさえすればすべてがうまくいく、などというわけがありません。どうもこの辺を取り違えて、このデータが出た途端、学校とか幼稚園、保育園で朝ごはんを食べさせようとしている状況が起きてきたのですが、決して取り違えないで欲しいのは、ヒトは寝て食べてはじめて活動できる動物だ、ということです。活動の中味は、学力、遊び、コミュニケーション、社会活動と様々でしょぅが、寝ないで食べないで活動しようとしてもできるわけが無いのです。逆にしっかり寝て、しっかり食べれば活動できるし、しっかり寝てしっかり活動すればおなかも空いてくるし、しっかり食べて、しっかり体を動かせばよく眠れるわけです。この3つは非常に密接に関係していることを是非知っておいてください。私は寝さえすればすべてがうまくいくなどとは考えていません。寝ること、食べること、活動することはすべて密接に関係しているのだという当たり前のことを強調しているのです。
 遊びとかコミュニケーションなどの活動の話は色々な場で聞く機会があると思います。食に関する話を聞く機会も多いと思います。しかし、眠りの観点から話を聞く機会はあまり多くないと思いますので、この文章が何かの参考になればいいなと思っています。今は食育が盛んです。みなさん,これから食の話を聞くことが多いと思います。食をやっている先生は朝ご飯が大事だ,だから早起きが大事で,早寝も大事だということで最終結論はぼくと同じ「早起き,早寝,朝ご飯」と言うことになります。ただ,中にちょっと変わった先生がいらっしゃって,たとえば「キレない子」にするための食事,こういった話し方をする先生が時々いらっしゃいます。しかし、食だけでキレるキレないが決まるわけがありません。食べること、寝ること、活動することは、すべて密接に関係しているのです。それを忘れないでいただきたいのです。私は寝さえすれば,すべてがうまくいく、などというつもりは全くありません。寝ること,食べること,活動すること,このバランスが大事だということを強調していますので,ぜひ誤解の無いようにしていただきたいと思います。
 北京五輪競泳で前人未到の8冠を達成したMichael Phelpsは"Eat, sleep and swim, that's all I can do.“(僕にできるのは食べて寝て、泳ぐこと)と言ったそうです(スライド11)。
 ヒトは寝て食べて、はじめて活動できる動物なのです。

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