ページタイトル 夜スペは生体時計を無視している。

対象者: 一般向け

夜スペは生体時計を無視している。

東京都杉並区立和田中学校で進学塾講師による有料授業「夜スペシャル(夜スペ)」が2008年1月26日、スタートした。実施については都教育委員会が義務教育の機会均等や公共施設の利用といったことを問題視、杉並区教委に実施の再考を求めもした。区教委は特別授業を「学校教育外活動」と位置づけ、都教委も「(特別授業は)学力の向上という公共の利益のためで、不適切なものではない」との見解をまとめ、実施を了承した。夜スペは学校の教室で平日夜3日と土曜に行われ、料金は一般の塾より安く設定されている。当初は受講者を選抜していたが、最近は希望者全員の受講を認めるようだ。

 この試みについては賛否様々な意見がある。学校の閉鎖性の打破の観点から試みを支持する意見がある一方で、営利活動への加担等々、試みに反対する立場からの指摘もある。私は眠りを専門にする小児科医の立場から、これまで議論がまったくなされていない点を指摘したい。それは夜スペの平日の終了時刻、21時35分についてだ。

 ヒトの脳の視交叉上核に存在する生体時計の周期は24時間より長く、夜間の受光は生体時計に作用しその周期を延長させ、本来存在する地球時刻とのズレをいっそう拡大させる。逆に朝の受光によって、生体時計と地球時刻とのズレは縮小する。このズレは毎朝の受光によって解消されるべきで、夜ふかし朝寝坊はヒトという動物にとっては決して望ましい習慣でない。事実夜型生活がもたらす問題点が近年盛んに指摘されている。

 台湾では2004年に男児(4-8年生)で、夜型の度合いと不機嫌の悪さとの相関が高いこと、2007年には12,13年生で夜型の学生は朝型や中間型の学生よりも、行動上あるいは感情面での問題点を多く抱え、自殺企図、薬物依存も多いことが報告された。フランスの学生でも夜型の度合いが高いほど衝動性であると2005年に報告され、2007年米国からは8-13歳児で、夜型が男児では反社会的行動、規則違反、注意に関する問題、行為障害と関連し、女児では攻撃性と関連することが報告されている。また米国では夜ふかし朝寝坊では学力が低下することも中学生から大学生に関する調査で2003年に報告されている。私は4-6歳児で睡眠習慣と行動との関係を検討、就床時刻や起床時刻が早く、かつ規則的であるほど児の問題行動が少ないことを見出した。

 夜型の生活は決してヒトという動物にとって好都合な生活習慣ではない。生体時計を考慮した生き方(biological clock-oriented life style)を推進すべきで、朝型のススメが私見だ。是が非でもプラスαの授業が必要ならば、朝スペを提案したい。もっともその前に、昼間の公教育を充実させることが第一であるべきであるのは当然なのだが・・・。



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