サマータイムは英語では daylight saving time つまりは昼間の明かりをsave、有効に使うための制度です。具体的には、現在の時刻を冬時間とし、春には時計を1時間進め夏時間とし、秋には時計を1時間遅らせ、冬時間に戻します。つまり春には今日の朝6時が明日からは朝7時 になり、秋には今日の朝6時が明日からは朝5時になります。だから朝同じ時刻に出かけようとすると、春は早起きに、秋は朝寝坊になるわけです。たかが1時間程度の時間のズレじゃないか、と思われるでしょうが、この1時間が結構厄介なのです。
サマータイム導入で、健康が障害されることがドイツでの大規模調査でわかりました。
1)時刻変更後に身体が慣れるまでに、秋には平均3週かかり、春には4週後も完全には慣れなかった。
2)特に夜型の人ほど、春の夏時間への変更後の慣れが難しかった。
3)夏時間への変更後3週間の間、睡眠時間が平均25分短縮した。
4)睡眠リズムは、冬時間の期間には日の出時刻と連動して変化したが、夏時間の期間には日の出時刻との連動が消失した。
このほか、夏時間への変更後には睡眠の質が悪化し、抑うつ気分や自殺が増える、という報告もあります。
日本人の睡眠時間は世界で一番短く、欧米よりも約1時間少ないのが現状です。この状態でのサマータイム導入はさらに睡眠時間を減らし、健康被害がこれまでの報告以上に出てしまうことが心配です。また日本の子どもたちの夜ふかしと睡眠時間の短さも世界的に見て突出しています。生体時計には朝の光、昼間の活動、夜の闇が大切です。サマータイムは確かに朝の光を浴びることについてはメリットとなりますが、夏時間になると、睡眠時間が減るのです。現在何とか維持している子どもたちの睡眠時間がさらに奪われるのです。小学生男子の50%、女子の60%、中学生では男子生徒の70%、女子生徒の実に80%が、本来ヒトという生物が最も目が覚めていなければいけない午前中から眠気を感じています。さらに3分の2の小中学生が最も欲しい時間として睡眠時間を挙げています。このような現状で、サマータイム導入によって、さらに睡眠時間が減ると、子どもたちの日中の眠気がさらに増し、昼間の学校教育の効率がいっそう低下してしまうことが心配です。また現在でも夜スペと称し、午後9時25分まで中学生を拘束しようとしている現在の教育事情を考えると、サマータイム導入後の夜間の塾通いがいっそう進み、子どもたちの生体時計の混乱が進行することが心配です。また大人の残業が減らない場合、共稼ぎ家庭での子どもたちが1人で過ごす時間が増え、メディア接触がさらに増える可能性もあります。過剰なメディア接触は、眠りと運動と生身の人間とのface to faceの関わりを奪い、対人関係のスキルの育成を阻みます。
日本政府はサマータイム制度を地球温暖化対策のひとつとして捕らえ、その導入を進めようとしています。「地球環境」をテーマにしたG8サミット開催もきっかけのようです。キャッチフレーズは、豊かなライフスタイル、省エネルギー、経済波及効果と魅力的です。たしかに帰宅時刻が早くなり、明るいうちから家族がそろって、楽しく過ごす。ゆっくり語らう、コンサートに行く。理想でしょう。ただし政府の試算は極めて杜撰です。交通事故が減ると試算していますが、その試算をよく検討してみると極めて不毛な試算です。サマータイムを実際に導入して交通事故が減った国などどこにもありません。
サマータイムはあくまで脳―前頭葉―で考えついた「工夫」です。現実のヒトは、周期24時間の地球で、前頭葉よりはもっと根源的な要素、すなわち生体時計(視床下部)と脳幹によって生かされている動物なのです。脳幹部、視床下部を含む大脳辺縁系、大脳皮質は、生きる脳、感じる脳、考える脳、あるいはいのちの脳、気持ちの脳、人智の脳です。人智・考える(大脳皮質)を軽視するわけではありませんが、もう少し自分たちの存在の基本であるいのちや気持ち、生きる感じるを尊重していただきたい、と思います。
PDFファイルは日本睡眠学会のサマータイムに関する最終報告書です。参考にしていただければと思います。
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